コロナ対策として外出自粛が促されており、なかなか思うように外出ができないなかにあっても転勤や異動、就職、就学により不動産の賃貸または購入活動はさけることができません。
このような時代背景において求められる不動産業の標準はどのようなものかを検討します。
非対面が求められる不動産賃貸業界
入居希望者は非対面での不動産賃貸活動を希望している実態が下記2社のアンケート結果で明らかになりました。
以下アンケート結果を参照しながら、詳しく紹介します。
70.6%が賃貸をスマホで完結したい
不動産テック企業のイタンジがスマートフォンで完結する賃貸サービスについてのアンケート調査結果を公表しています。
非対面型の「スマホで完結する賃貸サービスを利用したい」方が70%超
上記アンケート結果によると、物件探しから、内見、入居申込みまでスマホで完結するサービスがあれば利用したいと回答した人は全体の70.6%でした。
部屋探し・内見などの賃貸に関する活動は、「平日の休憩時間や隙間時間(仕事・授業・家事の合間)、平日の通勤・通学・移動中の時間、休日の隙間時間(用事と用事の合間)」など「ちょっとした隙間時間」に行われています。それはスマートフォンを利用することで隙間時間を活用できるからです。
しかし実際に経験した部屋探しでは、すべての工程で60~80%の人が「不動産店舗に行った、もしくは、不動産営業マンが同行し」ています。
なるべく多くの賃貸活動をオンラインで済ませたい入居希望者が多い半面、実際にはなかなか難しく、いずれかの工程は対面が行われていることがわかります。
95.5%がオンライン内見に興味あり
オンライン内見サービスを提供しているシンシアは、1年以内にマンションの引越し(賃貸)を検討している30代経営者・役員、会社員111名に対して行なった「非対面(オンライン)の不動産賃貸契約」に関するアンケートの調査結果を公表しています。
【コロナ禍のマンション賃貸契約】1年以内に引越しを検討する95.5%が「オンライン内見」に興味!
こちらのアンケート結果では、「非対面(オンライン)で行う内見に興味はありますか。」という質問に対して、「とても興味がある」が73.9%、「やや興味がある」が21.6%という結果でした。
非対面での内見に興味がある理由については、コロナ対策の一環として(66.0%)、物件内見に交通費をかけたくないから(58.5%)、内見場所と現住所がとても離れているから(55.7%)、内見する時間が取れないから(43.4%)、子供の世話で内見に行きにくいから(22.6%)となっています。
非対面(オンライン)で行う内見の形式については、現地にいる業者からWeb会議ツールで案内を受ける形式(47.2%)、画像や動画によるプレゼンテーション形式(29.2%)という結果でした。
コロナ対策や、時間がとれなかったり、遠隔地であったりするために非対面での賃貸活動が求められており、内見では現地をリアルに体験したい要望が強いこと、できれば賃貸活動の全てをオンラインで完結したい入居希望者が多いことがわかります。
求められるオンライン化による非対面完結
前記のように入居希望者は、物件探しから、内見、賃貸契約まで賃貸活動の全てがオンラインで完結することを求めています。
また、入居希望者は、内見時間を調整したり、賃貸契約書や保険など複数の書類を記入したりする手間を省きたいと思っています。
上記アンケート結果によると、内見について不満に感じた点では「内見日時を、不動産会社の担当者と調整するのが面倒だった」「内見する前に他の入居希望者が申し込み、内見したい物件がみられなかった」「自分のペースで内見できなかった」が上位を占め、自分のペースでゆっくりと内見したい希望がかなえられていないことに入居希望者は不満を感じています。
また、入居申し込みや賃貸契約締結の際に不満に感じた点では「入居申込みや契約に必要な書類を手書きで書くのが面倒だった 」、「入居申込以外にも、保証会社や家財保険など、複数の申込書を記入するのが面倒だった」が上位となりました。これは、入居者希望者は申込みや契約に関して手書きで複数の書類に記入することが面倒なのでなくしたい要望が強いことを表しています。
オンラインで賃貸活動を完結したい入居希望者に対して、現実には実際に現地で内見するために時間調整をしなければならないこと、複数の契約書に手書きをしなければならないこと、に入居希望者は不満を感じています。
非対面可能な賃貸業務は?
上記のように、入居希望者は非対面による賃貸活動を希望しています。
非対面化が可能な賃貸業務または不可能な賃貸業務について整理してみましょう。
非対面化が可能な賃貸業務
土地建物の賃貸借の重要事項説明及び賃貸借契約を除くほとんどの賃貸業務はオンラインで可能です。
重要事項説明書及び売買契約書については法律で文書の作成が義務付けられているため完全にオンラインで行なうことができません。重要事項説明では、重要事項説明書を事前に郵送しておいて、内容の説明をオンラインで行なうことになります。
一方で書面によって行なうことが規定されていない賃貸契約の更新や駐車場の契約は既にオンラインで全て行なう事業者が現れています。
重要事項説明までの賃貸活動はほとんどオンラインで可能です。
オンラインで接客をし、内覧もオンラインに対応できます。
非対面化のためのサービスやシステム
入居希望者が望んでいるオンライン化に既に対応を始めている不動産会社が多くみられます。
オンライン化によるメリットは入居希望者側にだけあるのではなく、不動産会社にとってもコロナ対策はもちろんのこと事務の効率化などのメリットが大きいからです。
・接客
不動産会社が独自に開発したシステムを利用している場合もありますが、ZoomやGoogle Meetなどのテレビ会議システムを利用してオンラインでの問い合わせに対応できます。
メールや電話と異なり、インターネット上で店舗スタッフと会話をしながら物件の外観、内装、周辺環境などの問い合わせが可能です。
・内覧
内覧の提供は大きく分けて2種類あります。
一つは、あらかじめ360度のパノラマ撮影をしておいたものをweb上で再現したり、VR技術で立体的に内見を体感できたりするシステムです。
一人で自由に部屋の中を歩き回れるメリットがあります。
もう一つは、不動産会社のスタッフが現地に赴き、物件案内もテレビ会議システムを利用して現地から直接入居希望者とつながるシステムです。
不動産会社のスタッフが現地にいますから、気になるところをアップして見せてもらえ、わからないところをその場でスタッフに確認してもらえます。
・重要事項説明
事前に重要事項説明書を郵送しておいて、オンラインで説明を行ないます。
入居希望者は重要事項説明が終わったあと重要事項説明書に記名押印して不動産会社に返送します。
・重要書類は郵送で行なう
重要事項説明書や賃貸契約書は今のところ書類を作成しなければなりません。
そのため法律で定められた一定の書類は郵送でのやりとりになります。
不動産賃貸活動のオンライン化は入居希望者、不動産会社の双方にメリットがあることですから既に対応を始めている会社は多くあり、対応を求められます。
賃貸のオンライン社会実験
既に不動産賃貸の分野では2017年10月からオンラインでの重要事項説明が試行されています。
また、先のように不動産賃貸契約の更新や駐車場の契約については完全なオンライン化が一部で実現しています。
新型コロナウイルスの拡大防止策として、業務の効率化、時間がとりにくかったり遠隔地にいるため実際に現地に行きにくかったりする入居希望者の利便性向上のために、オンラインで完結する賃貸活動が求められています。
業務の非対面化は不動産業界全体の課題
不動産賃貸業務についてオンライン化をみてきましたが、売買ではどのような動きがあるのか検討します。
非対面化の導入状況に関する意識調査結果
AIによる不動産査定と不動産買取事業を展開するすむたすは、自宅売却検討者と不動産売買業の従事者に対して「不動産会社に求められる新型コロナ対策サービスと実際の導入状況」に関する意識調査を実施し、結果を公表しました。
上記意識調査によって、自宅売却検討者の約半数が、価格査定、売買相談、内見対応、売買契約など全ての工程において、非対面サービスを希望しており、特に売買活動の初期工程となる価格査定や売買についての相談について特に非対面での対応を希望する人が多いことがわかりました。
自宅売却検討者が不動産会社に対して望む新型コロナ対策サービスのうち、「店内の感染防止対策」に関して不動産売買業の約65%が「実施済み」と回答した一方で、非対面サービスの導入率に関しては、「非対面(WEBや電話)での接客」が38.4%が最も多く、最も低い「電子契約・電子署名ツール」では15.2%となっています。
不動産売却を希望する人の約半数が不動産売却活動の全ての工程において非対面化を希望している反面、不動産会社での導入は接客を除いて対応が遅れている結果となりました。
売買のオンライン社会実験
2021年3月からは不動産売買取引においてもオンライン社会実験が開始されています。
売買についても賃貸と同様に重要事項説明をオンラインで行なうことが可能かを見極めるための実験です。
非対面で行われる重要事項説明では対面していないために威圧感がなくリラックスして説明を受けられること、事前に重要事項説明書が郵送されているためゆっくりと内容を確認できること、店舗に出向く必要がないこと、必要に応じて録画や録音をすることができること、などが評価されています。
非対面化の準備を今すぐ始めましょう
2022年5月から必ずしも文書を作成しなくてもよくなるため、オンライン化が加速すると予測されます。
2021年5月にデジタル改革関連法が成立し、宅地建物取引業法(34 条、35 条、37 条)により書面によることが必要だった手続きが書面による必要がなくなるため、賃貸活動の全てをオンラインで完結できるようになります。
自社で非対面化に対応するためのシステムを構築することは費用対効果の面で難しいことですが、さまざまなサービスやシステムが提供されているので、これらを利用することで導入費用の削減が可能です。またLINEやZoom、GoogleMeetなどのツールを利用して接客、内覧の非対面化も可能です。
そして、媒介契約や重要事項説明、売買契約は必ずしも実印を押捺しなくても認印を押捺すれば有効ですから実印に相当する電子署名サービスを利用者個人が導入する必要はありません。認印に相当する電子署名サービスは多くの会社から提供されていますから、こちらを利用することによりお客様への提供が可能になります。
媒介契約や重要事項説明、売買契約が文書による必要がなくなる2022年がオンライン対応の節目となり一挙にオンライン、非対面化が進んでいきます。賃貸の入居希望者や売買の売主、購入希望者の多くは、コロナ対策、時間節約や隔地での取引を希望するなどの理由でオンライン化を希望していますし、オンライン化を推進することは不動産会社にとっても業務の効率化に大きなメリットをもたらします。
できるだけ早いうちに自社でのオンライン化を検討したいものです。
重要事項説明についてはこちらのコラムでも詳しく解説されています。